たより、たよられ 手をつなごう
年長から入園した保育園で、なかなか友達の輪に入れずにいたという井上さん。
「担任のフジイ先生が私に寄り添ってくれて、すごく優しかったんです。その先生に会いたい一心で保育園に通っていました。おかげで、人見知りだった私にも徐々に友達ができました。高校で進路を決める時にフジイ先生のことを思い出して、私もフジイ先生のような子ども主体の保育士になりたいと思いました」
新卒入社した保育園で、キャリアの一歩を踏み出した井上さんは、そこで違和感を覚える。
「フジイ先生が行っていた子ども主体の保育とは全然違ったんです。個より集団、秩序を重視する保育園で、子どもが子どもらしくないと感じてしまって…。
せっかく就職できた保育園だから頑張ってみようと思いましたが、その違和感はどうしても消えず、きっと私の態度や言動にも出てしまっていたのかもしれません。一緒に働く先生たちから、まるで『いてもいなくてもいい存在』のように扱われることが増えていき、人間関係にも不信感を抱くようになり、3年で退職しました」
「自分には何が向いているんだろうって、ずっと悩んでいました」

悩む女性イメージ図
当時、子どもがかわいいと思えず、先生に対しても怖さを感じ、保育士を続ける自信がなくなっていた井上さん。その後、派遣で携帯販売や工場で働く日々を3年ほど過ごした。
派遣先のひとつとしてスーパーで試食販売をしていた頃、ひょんな出会いから人生の転機が訪れる。
「試食販売のお客さんとして、ひとりの女性から声をかけられたんです。その女性と話しが弾んで、趣味や今付き合っている人がいるか、みたいな話までして(笑)。結果、その女性から『息子を紹介したい』と言われて、実際お会いして交際半年で結婚しました」
義母からのアプローチで、現在のご主人と結婚することになった井上さんは、当時住んでいた熊本から、ご主人の住んでいた愛媛へ結婚と同時に転居することになった。
新天地での過ごし方を考えていた時、ご主人の一言でもう一度、保育士として仕事復帰しようと決意した井上さん。
「初めて暮らす場所で知り合いもいないし、まずはゆっくりしようかなと。でも主人に過去のことや今後の話を相談したら、『やっぱり保育士、向いているかもよ』って言われて。それで、もう一度、保育士として働いてみようと思ったんです。
そしたら、パートで勤めた保育園が、目指していた子ども主体の園で、とてもやりがいがあって。一緒に働く先生たちとも仲が良くて、すごく楽しかったんです。ただ、慣れない環境もあって体調を崩しがちだったんですが、その時に、ある先生から言われた言葉が今も心に残っていて。
『あなたはきっと、体調崩して周りに迷惑かけて申し訳ないと思っているでしょ?でも、それは気にしなくていいのよ。次、逆の立場になった時に、返していけばいいからね』って」

保育士イメージ図
ご主人の転勤によって、充実していた愛媛での保育士生活に終止符をうつことになった井上さんは、次の転勤先に移るタイミングでお子さんを授かった。
お子さんが未就学児のうちは一緒にいたいと思い専業主婦として育児に奮闘するも、心がどんどん沈んでいくのを感じていたという。
「保育士の時と、自分の子育てって全く違ったんです。主人や周りからは保育士やっていたから、大丈夫よねと思われていて、誰にも相談できずに、育児ノイローゼみたいになってしまって。
でも、その時に出会ったママさんと家族構成が似ていて、仲良くなって救われました。専業主婦だし、働いてなくて、自分で望んで子どもと一緒にいたいって言いながらも、きつくて。助けてとか、弱音を吐けなかったのが、そのママさんと話すことで、すごく楽になりました」
育児で孤独感を感じていた井上さんを救ったもうひとつの活動が、ファミサポ活動だった。
「娘が生まれる前から、ファミサポをやっていました。仕事を辞めると社会から疎外された感じがずっとあって、何かできないかなって思って始めました。
サポートする側として、依頼者のお子さんを園まで送迎したり、習い事の送迎や自宅で一定時間預かったり、少しでも人の役にたつ、必要とされていると思えて、すごく嬉しかったんです」

ファミリーサポートイメージ図
井上さんのお子さんが2歳の時に、ご主人の転勤で福岡に移住。ファミサポ活動はずっと続けていたため、福岡で依頼があったママさんとのご縁で、フリーランスに転向。
「これからどんな仕事をしていこうかと考えた時、お母さんを元気にする仕事がしたいなと思いました。それでファミサポ活動で依頼があったママさんが自宅サロンをされていたので、その間、お客様のお子さんを預かるベビーシッターの仕事を始めました。
私、機械音痴なのですが、この活動を広めたいとInstagram発信にも挑戦したら、それを見た方がお客様として来てくれるようになりました」
「他にもInstagramで出会った女性と、この街をもっと女性が輝く街にしたい、親子の居場所を作りたいという想いが一致して、ママさんたちがやりたいという声を実現するために動きはじめました。例えば、絵の具を使ったリトミック教室や、料理教室を開催しました」

料理教室イメージ図
ファミサポ活動や親子サロンで知り合ったママさん達の要望を聞きながら、イベントを企画していた井上さん。しかし参加費を抑えてもっと多くのママさんに参加してほしいとの想いが高まり、助成金を申請。
「助成金の申請が通って、2025年5月から運営を開始しました。昨年はママさんたちの要望で、いろんな講師を呼んでいました。今年は居場所づくりも兼ねて、ママさんが笑顔になるような企画もしたくて。
結婚・出産で前職から離れたり夢を一時中断したママさんが、もう一度夢を実現できたり、育てていける場をつくりたいと思っています」
「今、女性たちを取り巻く環境はまだまだ閉鎖的だと感じている。働くことでみんなが笑顔になればいい」と話してくれた井上香さん。私自身、育児期間は孤独に感じた経験がある。
井上さんはファミサポ活動を通して、多くの女性たちとつながりができ、救ったり救われたりを繰り返している。自分が苦しい時は、周りに頼ることが必要で、自分に余裕ができたら今度は手助けをする。そうやって社会が循環すれば、きっと女性たちの笑顔が増えると感じた。
福岡市のファミサポ活動の詳細はこちらをご参照ください☟
(福岡市社会福祉協議会ホームページ)


