インタビューNo.35

みんなの働き方

初志貫徹


今回取材したのは、今春に大学を卒業し新社会人として働き始めた上畠茉優子さんだ。現在、広告制作会社に勤務している彼女は、学生と社会人との違いに気づいたという。初志貫徹を掲げる彼女の今の働き方に迫った。

 

学生と社会人の違いとは?

「私は、学生時代から自立して物事を決めていくということに意義を感じていました。部活もしていなくて、人付き合いも苦手だったため、一人で悩んで一人で解決するクセがしみついていました。今思うと、学生まではそれでもやっていけたなと。

ただ、仕事となると、それが裏目に出て、人と一緒にやっていくということを忘れて、なんでも自分でやろうとして失敗する。それが積み重なって、上司や先輩から指導されることがけっこうあって、人付き合いが構築されていないなと気づきました

 

 

上畠さんはどんな学生時代を過ごしたのか?

「小学生の時は絵が得意だったんですが、やりたいことが定まらず、夢だけ見ている感じでした。

中学に上がり、不登校になりました。グループで活動することやクラスのみんなと一緒に行動することに違和感を覚え、不登校児を支援するクラスに通っていました。

支援クラスでは私と同じような感覚を持った人たちがいて、そこで友達がたくさんできました。友達とアニメの話をして、その時から本格的に絵を描き出しました。カテゴリーとしてはイラストに興味を持って、私は手を動かして書くのが好きだなと思いました。

 

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その後、高校進学ではデザイン系の学校も選択肢として考えましたが、やはり普通の学校なんです。固定のクラスがあって、みんなと一緒に行動するといった感じで。

中学で不登校を経験したので、その苦手な環境に戻るのか……と躊躇しました。

結果、高校選びは、絵を描くことより自由な環境を優先しました。イラストには直接関係のない学科でしたが、授業が単位制・選択性で、固定のクラスも制服もない。学習スタイルを自分で決められる校風が私には合っていました

 

 

高校で自立と自律を培った上畠さん。大学は、自分が好きなデザイン分野に進む。四年間デザイン系の学びを経て就職活動を始めた時に、大学の先生からある一言を言われる。

「学部の先生には、諦める道も探しましょうと言われていました。

両親に大学資金を援助してもらい、専門技術を学ばせてもらったからには、やっぱりそれを活かせる就職先がいいなと思いました。

ただ、現実は厳しくて、デザイン科で学んでも、デザイナー系の職業につけるのは3割ほどなんです。

私は、諦め悪くデザインに携わるところばかり受けたのですが、縁があり、現在の広告制作会社に入社することができました」

 

 

デザイン系の業界で有名な企業に入社した上畠さん。入社後に社長から合格の決め手を教えてもらったのだという。

「入社試験は、ポートフォリオ(経験や能力を示す作品集)と小論文の提出があって、それに合格したら個別面接があります。

ボートフォリオなども評価していただきましたが、面接の時に話した学生時代のバイトの経験が社長の印象に残ったみたいです。

それが、全然絵に関係ないのですが、早朝、開店前に銭湯の掃除をするというバイトで、これがきつくて。毎回5時起きで、3時間清掃していたというところが、根性や本気があっていいと言われました。

 

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実際入社して働きだすと、この仕事は根性が必要だなと思っています。社長からも入社時に、覚悟しといてね(笑)と言われていましたが、私の本気が試される仕事だと今まさに痛感しています

 

 

根性が必要な現在の仕事内容とは?

「WEBが中心のデジタル部に配属されました。WEB上のサイトづくりや、短いCM動画、LPの作成をメインで行う部署です。

ここで必要なスキルが、全く経験がなかったコーディング(WEB上で希望イメージを表示できるよう専門言語を使ってコードを組む)作業でした。

デザインをしても、それは全部プログラムを組むのですが、描くとは違うんです。コーディングで、どういう組み方ができるというのがわかっていないと、まずデザインができないんです。

入社直後は、わからないことだらけで、今までの学びが全て使えないような状態でした。

しかも、この部署の先輩方は入社して、いちからコーディングを叩き込まれた方々ばかりなんです。かなり上の先輩に至るまで、入社前にコーディングしていたという人はいないんです。

誰もが通った道で『やったことないから、できない』と弱音を言いづらい環境ではあります。 だから勉強あるのみなんです。一応、研修は終了したんですけど、出来は悪い方なんじゃないかなと個人的には思っています。未熟だと感じています

 

 

広告業界で働く環境とは?

「とにかく忙しいです。広告業界は全体的に忙しいと思います。定時は17時半ですが、やはり定時を過ぎて残業することが常態化しています。

請負なので相手企業とのやり取りで時間や手間がかかる感じです。無理難題もあるなかで、いかに要望に応えるか、上司も先輩も相手企業の担当者もみんな大変な中、頑張っているなと感じます」

 

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上畠さんの今後の課題は?

「今は、ひとつ仕事を請け負うたびに、なんか落ち込むんです。頑張っても何かが抜け落ちるみたいで、なんでこれに気づけなかったのだろうと。研修中は辛くて眠れないこともあり、自宅に帰ってもあとは食べて寝るだけの生活になっていたこともあります。

ただ、今は会社を辞めるという選択肢はありません。

私が元々真面目で、採用されたのに放り出すというのができない性分でもありますし、新しい分野で学ぶ機会を得たので、どんなにきつくても、ミスがあっても、今やれることはやっておきたい、キャリアを積みたいと思っています。

早く仕事ができるようになれば、気持ちにも余裕ができると思います。上り調子だけだった学生時代とは違って、今は下り調子にも自分の力で対応しなきゃいけないんだっていうのはすごく実感しています」

 

 

 

社会に出ると、チームでひとつの業務をこなしていく。人と関わって、コミュニケーションをとりながら運営していくスキルは必須だ。それは会社員でも起業家でも変わりない。

自立や自律と同じくらいコミュニケーション能力も必要だが、それに気づいて淡々と話してくれた上畠さんは、とても謙虚で、冷静だった。

入社して半年、学生時代とのギャップに戸惑いながらも新社会人としての一歩を踏み出した上畠さんを、これからも応援していきたい。

 

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