居場所づくりの表現者
相川七海さん(JOY SPACE)のInstagramはこちらから
小学生の時は、学年で一番身長が低く同級生を年上に感じてしまい、友達を呼び捨てにできない子だったという相川さん。
「常にみんなの末っ子的な立ち位置で、頼ったり甘えたりは自然とできても、人前に出て発表したり、私はこうしたい!を相手にはっきり伝えられず控えめで、周囲に対して常に劣等感を抱えていたような気がします」
そんな想いを抱えながらも、
相川さんは中学校で生徒会に立候補する。
「生徒会活動で、人前に出ながら具体的に生徒をまとめていく経験がとても楽しかったんです。年上の先輩たちとの関わりも大きく、本来の自分らしさを少しずつ発揮できる恵まれた環境でした」

生徒会活動イメージ図
生徒会活動の経験が、
自分の中の殻を破る第一歩となった。
高校では、ただただ恋愛に夢中になった時期もあったが、三年生の最後の文化祭で友人に誘われた舞台企画が、相川さんの中に“表現したい”という情熱を呼び覚ます。
文化祭の舞台企画で出逢った1人のメンバーに大きな影響を受けた相川さん。
「隣のクラスの“ヒロシくん”です。彼の第一印象は、角刈りで眼鏡をかけて、教室の隅にいるような “THE・ガリ勉くん” (笑)。
関わることは絶対にない人だと思っていましたが、蓋を開けてみると、趣味でブレイクダンスを極めているような凄いギャップを持った表現者だったんです。彼のダンスを見せてもらったときに感激して言葉を失いました。
私自身も幼い時から踊ることが大好きで、家族に隠れながら練習をしていたので、そんな彼に自身を重ねて共鳴したんだと思います。
結果、最後の文化際では、自分の中に秘めていた“表現したい!”を思いっきり出すことができたし、同時に私は人前に立って何かをしたい人間なのかもしれないと気付きはじめました」
高校卒業後は、
短大に進み保育士を目指していた相川さん。
しかし、ある舞台を観劇したことで
人生の岐路に立つこととなる。
「高校三年生、ほぼ進路先も確定していた頃、福岡の老舗劇団が高校の芸術鑑賞会にやって来ました。その舞台を観てとても感動し興味を持ちました。
卒業も迫った三学期にその劇団の新人募集が行われていることを知り、応募するか悩んでいた私にヒロシくんが
『リーダーならやれますよ!迷っているなら、やるべきです!』

励ますイメージ図
と思いっきり背中を押してくれたことで、 オーディションを受けることに決めました」
短大と劇団どちらも合格が決まり、
二足の草鞋(わらじ)で進む決意をした相川さん。
だが半年後、“この道に懸けたい”と短大を中退。
舞台の世界に全てを注ぐことを選ぶ。
その直感を信じて選んだ結果、
博多座の舞台に希望する配役で出演することが決まった。
「短大を中退したからこそ劇団の記念すべき博多座公演の舞台に立つことができました。その頃から、自分が下す“タイミングを見極める力”みたいなものをすごく信じるようになりました」
以降、昼はアルバイト、夜は稽古という日々を過ごしながら舞台に立ち続け、やがてナレーターや講師活動、舞台の裏方業にも関わるようになり、表現の世界をさらに深めていった。
そして、20代後半にさしかかり、
結婚し長男を出産。
わずか3か月で現場復帰し、
7か月で保育園に預けながら制作業にも復帰。
しかし間もなく、次男を妊娠。
体への負担が増すなか、舞台や企画業務は続いた。

余裕がないイメージ図
「今思えば、すべてに余裕がなかったです。とにかく心身ともに無理をしていました。仕事と母・妻としての両立が上手くできず、仕事への情熱も徐々に薄れてきてしまい、こんな自分でいるのも嫌だったし、とにかく葛藤していましたね」
心身の負担、情熱の揺らぎ。
さまざまな葛藤のなかで、相川さんは立ち止まる。
そして、次男の育休中に“一度、自分のこれからを見直そう”と決断。福岡女子大学の就労支援プログラムを受講し、新しい道を探る中で、これまでとはまったく異なる業界への転職を決める。
次男の保育園入園とともに、
マーケティング部門がある会社に転職した相川さん。
9時半から16時半の時短パート。
子育てに理解ある職場で、制度も整っていた。
「苦手分野であることは理解しながらも、以前から興味のあったマーケティングに従事できることや働きやすい環境に惹かれ、入社しました。
恵まれた環境だったのに、なんだかずっと背伸びしながら、サイズが合わない服を着ているような感覚がありました。
他の人がしないような小さなミスも目立ち、その度に焦り、自分を責めては奮い立たせ、勉強をする日々。自分らしさが上手く発揮できない環境で、すっかり自信をなくしていました」
地道な分析や、細かな気付き・気遣いが必要な苦手作業にどれだけ気をつけても、自信を取り戻せなかった相川さん。
そんな時、JOY SPACE(ジョイスペース)という、地元でも注目されている健康サポート事業を行っている友人から声がかかった。
“七海さん、ぜひうちのチームに入ってくれませんか?あなたはできる人!もったいない!自信を取り戻して!”
という友人の熱いエールを受け取り、思いっきって環境を変える決心をした。
こうして始まったJOY SPACEでの活動。
「この活動を、ちゃんと波に乗せていきたいです。JOY SPACEのテーマとしては、ここに行けば笑える、失敗も楽める、そんな場所を提供することです。
現在の主な活動としては、シニア世代・スポーツチーム・企業様向けに脳トレと運動を掛け合わせたメゾットで指導にあたっていて、私は主にコミュニケーションの場づくりを担当してます」
また、相川さんがずっと温めていた想いも形になり始める。
それが、“Today(トゥデイ)”という子ども向けの表現教室の構想だ。
「小学校三年生くらいって、ちょうど人間関係ができてきて、同時に自分を少し出しづらくなる時期だと思うんです。学校という社会ができはじめる。私自身がそうだったように、心の中でモヤモヤを抱えている子って、きっとたくさんいると思うんです」

もやもやを抱える子イメージ図
相川さんが目指すのは、
子どもたちが“自分らしさ”を見つけられる空間づくり。
「ここでは思いっきり自分を出していいんだよって言ってあげられる、今のあなたを思いっきり魅せて。そんな場所にしたい。表現を通して、それぞれが主人公であることを自覚できる、まるで絵本のような空間を作りたいんです」
「私にとって働くことは“挑戦すること”かなと気付きました。
成功が約束されている作業は、成果にはつながるけど、私にとって“働いた!”という実感とは少し違います。結果はやってみないと分からない、本気で真面目な過程に価値が生まれてくると考えていて。
だからこそ、良き人間関係(チーム)と、自分の得意や興味、これが好き!という気持ちを武器に、人のために挑戦し続けることが、結果私にとっての“働く”に繋がっている気がします」
いま相川さんは、
JOY SPACEとToday、2つの“居場所”をつくる活動に本気で向き合っている。
それは、舞台に立っていた頃と変わらない、“表現者”としての生き方だ。
相川七海さんと初めて会ったとき、初対面とは思えないほど自然に会話ができた。その柔らかく引き込まれるような表現力とコミュニケーション力は、これまで彼女が積み重ねてきた経験の証だと、取材を通じて実感した。
彼女の新たな挑戦は、まだ始まったばかり。
これからの一歩一歩が、きっとまた彼女らしい道を切り開いていくのだろう。