安定も挑戦もどちらも選び取る
高校の進路を決める時まで、幼稚園の先生を目指していた森武さんだったが、母の一言で理学療法士を目指すこととなる。
「小さい頃から、子どもが好きで、素敵な幼稚園の先生もいてその方たちに憧れていました。でも進路を決める時、母から『幼稚園の先生の資格を持っていても、違う仕事をしている人もいるし、本当にそれでいいの?理学療法士は、子どもと関わる今からの分野よ』と言われて。
子どもと関われて、今からの分野ならそれもありかなと思ったんです」
理学療法士の専門学校へ進んだ森武さんだったが、その後、挫折を味わうこととなる。
「入学して1ヶ月もすれば、あれ?違うぞとなって。骨と筋肉の勉強が続いて、私こんなふうになりたかったんじゃないって思ったんです。自分の夢と現実のギャップが大きくて。
親に何度もやめたいって言ったけど、卒業した後にそれでも違うと思ったら次の夢を追いかけたらいいんじゃないと言われて。でも、なりたいものじゃないもののために、なんでこんなに勉強しないといけないのかとか、周りのみんな頭がよかったから余計苦しくて。挫折して、2年生を2回しました」

挫折イメージ図
それでもなんとか勉強し学校に通い続けた結果、森武さんはあることに気づく。
「3年生になって初めて、これは適当に向き合ってはいけないと感じました。3年生はほとんどが実習ですが、もともと人と関わることは好きなので、実習を通して人が変わっていく瞬間に立ち会うことができました。
自分が関わった時間や対応で人の未来が変わっていく本当に尊い仕事だと考えさせられたし、“人の転機に関わる”という点では、幼稚園の先生も理学療法士も同じなんだと気づき、この仕事をやっていこうという気持ちが芽生えました」
専門学校を卒業した森武さんは大好きな地元・北九州市の病院で理学療法士として就職。そこで18年のキャリアを積み上げていったが、二度目の挫折が訪れる。
「病院では、在宅のプロを目指して訪問リハのキャリアを積んできました。さらにキャリアアップのため、より広い視野で多職種をコーディネートできるケアマネジャーの資格も取得しました。
その結果、リハとケアマネの両方の視点を持って患者さんに関わる在宅支援の先駆けとして、ケアマネ部門への異動に抜擢されたんです。でも、この仕事は自分には合いませんでした」
そもそもリハ部門とケアマネを管理する看護部門では、大切にしている価値観にズレがあった。森武さんはリハ部門においては人間関係やチームづくりを重要視していたが、看護部門ではあまりにも多忙で、それを大切にする余裕がなく、実務をこなすことが優先される環境であると分かった。
その現実に気づいたとき、心も体も、そして家庭の状況も乱れ、結果として二度目の挫折を経験することになった。
二度目の挫折から間を置かず、介護施設<株式会社ホットウィル ライフラボ戸畑>に入職した森武さん。現在は、充実した毎日を過ごしているが、施設立ち上げメンバーとして転職当時はとても大変だったという。
「入職して思ったのが、自由度が高いということでした。病院での働き方は、きちっとしていて、もちろん副業禁止だしマニュアルもしっかりあって、ルールに従って働くのが普通でした。
でもここは当初、何も整っていない、ルール1つなく、みんなが自由に動くから、ゼロから作り上げないとまわらない状況でした。今までは、決められた中でどう育成していくかだったけど、働く環境の整備や仕組みづくりを、いちから手掛けることになって。

楽しい職場イメージ図
でもそれが、どんどん楽しくなりました。環境とか、働く人とか、チーム作りとか、育成とかがとても好きだと気が付きました。人も大好きでメンタルヘルスの資格もとったし、職員ひとりひとりの働き方も考えないといけなくて、それでキャリアコンサルタントの資格にもたどりつきました。
なりたい自分になるためにどうしていくかは、なんとなくわかっていたけど、それに根拠を持って人に説明できるかと言ったら、私はそうしてきたとしか言えなくて。
でも、キャリア理論を学ぶ事でそれが根拠付けられたんです。医療業界って根拠が大事で、私の経験だけではあまり通用しなくて。
私の経験や価値観が、『それって自分のマインドだよね』で終わるのではなく、キャリアコンサルタントという根拠のある資格をもつことで、みんなが受け入れやすくなったと思います」
「働くって、自分の価値提供であり、自分の価値を相手が受け取りやすい形にどう変換できるかが大事だと思っています」
その価値を届けるためには、まず自分自身が何を届けたいかの想いを明確にする必要がある。
「自分がしたいことを、どんな小さいことでもまず言葉にすることが大事だと思います。私は、こうしたいって言っていると、同じ想いをもった人たちと巡り合うし、環境が整っていくと思います」

言葉にするイメージ図
「私は、安定も挑戦も、どちらも自分で選び取っていきたいと思っています。挑戦するなら一旦安定を捨ててとか、逆に安定を取るなら挑戦って趣味だよねとかではなく、安定も挑戦もどっちも手を抜かずに、その時その時大切なものをきちんと自分で選んでいきたいです。
副業のキャリア支援では、知らないと進めないような情報を提供したり、必要であれば行政とつないだりしています。安定がないと女性って進めないこともあるので、安定しつつ挑戦できるとわかれば、自信を持って前に進んでもらえるんじゃないかなって。

キャリア支援イメージ図
本業の介護施設では、育成部門を立ち上げて育成システムの構築と育成ができるスタッフを増やしたいと思っています。それぞれの強みを活かしながら、小さな役割から挑戦していく。
家庭を持っているスタッフも多いので、キャパオーバーせずに適正な量の役割からスタートして、少しずつ成長してもらいたいです。みんながみんなのことをちゃんと共感しながら共存できるかが今の課題ですね」
職場では実務と並行して、スタッフ面談や全体研修、勉強会を開催し、多忙な日々を送る森武さん。取材中には、施設利用者からいただいた言葉に、思わず涙をこぼす場面もあった。
「利用者から、スタッフの人柄がいいと言われることが増えて、本当に嬉しくて。それって、私たちにとって何よりの財産なんです。最近は、仕事がますます楽しくて、今の働き方に満足しています」
安定した環境の中で価値を届けながら、新たな挑戦にも踏み出す。挫折の先で見つけた「人の転機に関わる仕事」という想いは、形を変えながら今も森武さんの働き方を支え続けている。

